お侍様 小劇場
 extra 〜寵猫抄より

    “夏がくる前に”


結構、もう暑ちゅかったのに、
今年の夏ちゅは まだもうちょっと掛かるらしいのね。
おコタをしまって、そはー(ソファー)を戻して。
そいでも、板張りの床はいっぱいぱい見えるよに、
敷ゅき物がまだ小っちゃいからね。
背中でゴロンてしたらば、ひやひやってして涼しいんだお?
そいでね、あのね?
雨あめこんこが上がったらね?
シチがカニカマときうり切ったの乗っけた
ちるちるを作ってくれるんだvv



     ◇◇◇


微妙に食い気が勝さっておいでのメインクーンさんで。
何せ猫だし、まだまだ幼い仔猫だし、
そういった心情がちゃんと通じる相手は限られているはずが。
大きめのお耳をピンと立て、
掃き出し窓のすぐ傍らに、
前足そろえてお行儀よく、ちょこりと座しておれば、

 「おや、久蔵。」

よく判りましたね、
ヘイさんがわらび餅を持って来てくれたのですよ。
いい子にしてたなら、
今日のおやつに出したげましょねと。
通りすがりのおっ母様、
島谷せんせえの資料を掻き集め、
書斎まで向かう途中の七郎次さんが、
上背のある身を柔らかく曲げると、
足元という低い位置の仔猫様のオツムを、
ちょいちょいと軽やかに撫でての通り過ぎてったりし。

 「???」

おかちぃなぁ。ただ座ゅわってただけだのにねぇ。
でも、わやびもっちぃは好ゅきだから、いい子してようね?と。
すぐ傍らで、そちらさんはやっと覗いた陽の恩恵、
板の間へ木洩れ陽が躍るのを追っかけていた、
クロちゃんがコロコロコロンしているのへ。
ねえねえと前足を振り振り、話しかけてる小さな仔。
ぽあぽあした毛並みがそれは柔らかそうで、
胸元にちょっぴり盛り上がった綿毛が、
幼子の精一杯のおしゃれに見えなくもない、
そんなメインクーンの赤子猫。
ガラス戸や鏡には、
そしてよそのお宅の人の目には、そうとしか映らぬ存在なれど。
細っこいお尻尾がちろちょんとはためいた先のお尻が、
小さいながらもフリースの半ズボンに包まれて見える、
こちらのご家族にとっては。

 ねえねえねえと、
 クロちゃんという小さなお友達へ延べたお手々も

それは柔らかそうな幼子の手、
色白な肌に包まれた、人の和子のお手々にしか見えぬ。
瑞々しい緋色の口許に、つんとした小鼻、
けぶるような金の髪を細いうなじへまで届かせた、
いとけなくも愛らしい、
それは可愛い甘えん坊な坊や。
煮魚やあらびきのソーセージ、
ささみのサラダにチャーシューの甘辛煮。
モンブランにバニラアイスに、
そうそう、最近はあのね?

 「そうだ、今日は冷や麦にしましょうか。」

ちょっぴり蒸したからか、
それとも今かかっている作品が、
珍しくも少々手詰まりになったせいか。
食欲が沸かぬと、あんまり箸が進まぬらしい勘兵衛だったので。
雄々しい肢体のどこをどうつついたら、
早急に案じてしまうような事態になるやら、
相変わらず頑健な壮年殿なのへ。
だっていうのに お体を気遣ってのこと、
こちらも麗しのお顔を曇らせておいでのおっ母様だが。
ふと思いついたことがあっての、
書斎から出て来がてら、そんなお声をかけた七郎次だったのへ、

 「…♪」

こちらはお元気なまんま、
あっvvて、わわっvvて、
仔猫さんのお尻尾が跳ねて、
クロちゃんへねえねえとお顔を寄せている。

 今日のお昼は ちるちるだおvv
 クロたん、初めてだねvv と

まだまだ花より団子な腕白さん。
緑雨の余韻の情緒より、一足早い夏の味覚の方が
先にアンテナへ引っ掛かったようでございます。







   〜Fine〜  2012.06.16.


  *いやぁ、
   ここ数日は、雨が降っても湿度が高くて蒸しますね。
   寝苦しいったらありゃしませんで、
   島谷せんせえ、それもあっての筆が進まず、
   そいでもって敏腕秘書殿も
   なかなかお仕事モードから恋人モードに戻ってくれずで
   踏んだり蹴ったりなのかも知れません。

   「…何の話だ。」
   「まったくです。///////」
   「にゃ?」

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